「マネー・ショート 華麗なる大逆転」から学ぶ哲学

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投資情報

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の概要

(1)あらすじ

2005年。風変わりな金融トレーダーのマイケルは、格付けの高い不動産抵当証券に信用力が低いはずのサブプライム・ローンが組み込まれていることに気づき、破綻は時間の問題だと見抜く。だが、好景気に沸くウォール街で彼の予測に真剣に耳を傾ける者など一人もいなかった。そこでマイケルは、“クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)”という金融取引で、バブル崩壊の際に巨額の保険金が入る契約を投資銀行と結ぶ。同じ頃、若き銀行家ジャレッドやヘッジファンド・マネージャーのマーク、引退した伝説のベンもまた、バブル崩壊の足音を敏感に察知し、ウォール街を出し抜くべく行動を開始するが…。

2)キャスト

クリスチャン・ベイル(マイケル役)
スティーヴ・カレル(マーク役)
ライアン・ゴズリング(ジャレッド役)
ブラッド・ピット(ベン役)

3)監督

アダム・マッケイ

(今作品の他「アント・マン」「バイス」など)

(4)受賞等

第88回アカデミー賞で監督賞や作品賞など計5部門にノミネート。うち、脚色賞を受賞。

見た感想(※ネタバレあり)

以下ネタバレを大量に含む。

ここからは、見た方を対象に自分の印象に残ったシーンや感想を書いていきたい。

今作品の構成についてだが、日本語のタイトルにある通りの「華麗なる大逆転」のストーリーではない。キーパーソンとして描かれる「空売り」をした4人の主人公はCDS売却により確かに数億ドル単位の利益を挙げたが、その表情はクライマックスに至っても皆曇っていたからだ。

マイケル、マーク、ベン、ジャレッドに共通して言えるのは、皆、経済崩壊の足音に気づいていたことと、その足音に気付き、CDSを保有することで「崩壊」にbetする一方で、どこかで崩壊しない未来を期待していたという矛盾を抱えていたことだ。

作中では、デフォルト増加による住宅ローン会社の倒産が始まったのにも関わらず、CDOの格付けがAAAのままで、債券価格が下落しなかった際、登場人物らはその不自然さに困惑、怒りを露わにするシーンがあった。

それは強者の利益を保護するシステムの在り方への反発であり、決して経済の崩壊を望んでいるわけではなかった。

マイケルはその状況を、「市場のシステムが正常に機能していない」と語った。作中で正義感の強い人物だと語られるマークは、CDOの仕掛け人である投資銀行重鎮に毅然とした態度で意見を述べた。皆経済のシステムを最後まで信じ、在り方について世界に問い続けた。

ファンドマネージャーであるマイケルが、物語のラストでファンド閉鎖を決意した際、顧客である投資家たちに送ったメッセージが印象的だ。

「金儲けは想像と違った。このビジネスは人生の本質を殺す。この2年間は内臓を蝕まれるようだった。人々は物を評価するプロを求めているが、事実や結果に基づくプロを選択しない。人々が選ぶのは親しい仲間であるプロだ。そして僕は決して親しい仲間ではなかった。だからこのファンドを閉鎖しようと思った。」

彼がビジネスで失いかけた人生の本質とはなんだろうか。私は、彼が人々に対する友愛に満ち溢れていて、それを人生の本質だと感じる人物なのだと思う。

彼は、この金融危機を通して、崩壊を予見できた自分だけが、周りの人たちを差し置いてCDSで莫大な利益をあげたことで「人生の本質」を自ら傷つけたかのように感じた。

かつ、崩壊を予見できていたのにも関わらず、自分が人々から「選択」されなかったことで、被害を食い止められなかった無力感を感じた。だからファンドを閉鎖した。

赤字でリターン+489%とホワイトボードに書き、その華々しすぎる数字と裏腹に、マイケルは複雑な表情を浮かべ、部屋を去る姿が余りに寂しい。

もう一点。

元伝説の銀行家ベンが、CDS購入が上手くいって浮かれる若手投資家2人を諫めた言葉。

「俺たちが勝てば、国民は家や仕事や老後資金を失う。人々が数字化される。失業率1%上昇、4万人死亡・・・」

投資はただのマネーゲームではない。自分たちが「勝つ」時、口座内の数字が膨大に増す時、現実世界では多くの人々が苦しんでいることになる。指標やグラフ、単なる数字の裏に、人々の生活や命までもが動いていることに気付かされる。

まとめの哲学

作中、経済が一気に崩壊へと転換していく場面で、村上春樹の「1Q84」の一節が引用される。

「-誰もが心の奥底では、世の終末の到来を待ち受けているのだ。-」

破滅願望は人間が皆等しく持つものだろうか?

今作品にこの言葉を引用した意図として、一連の金融危機は、地震や台風といった天災ではなく、意識していたかしていないかに関わらず、「世の終末」を望んだ人間による人災であるというメッセージが示唆されているように思う。

我々の心のどこかに自己破滅願望が存在するとして、万物に本質的価値を感じない虚無主義が心のどこかにあるとして、その言葉の本質と実体が見え辛い「経済」と「金」は、そのニヒリズムをより加速させ得るのかも知れない。

コメント

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